2025年7月4日金曜日

衰退する日本 Japan in Decline

  猛暑の下、大阪の人工島・夢洲で大阪万国博が開催されている。夢洲は、ゴミを埋め立てて出来た島である。当初から、なぜこんなところで、という声があった。

 大阪維新の会所属の大阪府、大阪市の首長たちは、その夢洲にカジノを開設しようとしていた。しかしカジノ建設のために、公金をつかってインフラの整備をするわけにはいかないので、万博を誘致して公金でインフラ整備をおこなわせようとしたのである。姑息な作戦であった。

 万博開催が決まってから、各国のパビリオンの建設が始まった。しかし、日本の大手ゼネコンはパビリオン建設に手を挙げなかった。そのため外国系の企業が建設することとなり、建築を進めるためたくさんの下請け業者を集めてきた。

 そしてパビリオンが完成した。しかし、建築を請け負った元請け業者は、下請けの業者にカネを支払っていない事例があることがわかってきた。実際に建築に携わった人びとは、小さな企業で、カネを支払ってもらわなければ立ちゆかなくなる。それでたいへん困っている。

 万博は国家事業だから、という認識で、下請け業者たちはたいへんな仕事をしてきたのだろう。

 ところが完成してみれば、自分たちが働いた代価が支払われない。そこで困った業者たちは、万博を開催している万博協会に訴えた。ところが、万博協会は、民間企業と民間企業とのあいだに生じた問題だから知らん、という態度をとっている。

 わたしはここに、日本の衰退、劣化を見る。万博は国家事業ではないか。その国家事業に関係した人びとに代金が支払われない事態が生じた。万博開催に責任を持つ万博協会が、そうした人びとの声を無視する、まさにここに日本国家の劣化が映し出されている。

 The Osaka World Expo is being held on Yumeshima, a man-made island in Osaka, Japan, under a sweltering summer heat. Yumeshima is an island created by reclaiming garbage. From the beginning, there were people who wondered why the Expo was being held on such a place.

 The leaders of Osaka Prefecture and Osaka City, who belong to the Osaka Restoration Association, wanted to open a casino on Yumeshima. However, they could not use public funds to build infrastructure for the casino, so they tried to lure the Expo to Yumeshima and use public funds to build the infrastructure. This was a very clever strategy.

 Once the decision was made to host the Expo, construction of pavilions for each country began. However, the major Japanese general contractors did not take part in the construction of the pavilions. Therefore, it was decided that a foreign company would build the pavilion, and they gathered many subcontractors to proceed with the construction.

 The pavilion was completed. However, it has come to light that in some cases, the main contractor who undertook the construction did not pay money to the subcontractors. The people involved in the actual construction of the pavilion are small companies, and if they do not receive payment, they will not be able to survive. They are in a lot of trouble.

 The subcontractors must have been aware that the Expo was a national project, and they worked very hard.

 However, when the Expo was completed, they were not paid for their work. The contractors, troubled, appealed to the Expo Association, the organizer of the Expo. The Expo Association, however, has taken the attitude that it does not care about the problem because it is a matter between a private company and a private company.

 This is where I see the decline and deterioration of Japan. The Expo was a national project. The people involved in the national project have not been paid. The fact that the Expo Association, which is responsible for hosting the Expo, ignores the voices of these people is a reflection of the deterioration of the Japanese nation.

 

日本の選挙

  参議院議員選挙が始まった。おそらくテレビではその報道が過熱していることだろう。新聞はとっているので、新聞でも選挙報道が多くの紙面をさいている。

 わが家は市の中心部から8キロくらい離れている住宅地にある。市議会議員選挙など当該自治体の選挙に於いては、多くの選挙カーが候補者の名前を連呼して通り過ぎるが、参議院議員選挙では、まれに選挙カーが喧騒をまき散らして通り過ぎるだけで、いつもの静かな日々である。候補者たちは、人の多い都市中心部でのみ、演説や握手を展開しているのだろう。

 日本の選挙のいつもの光景は、そうした候補者名の連呼と、ときにポストに入れられている候補者のチラシだけが選挙中であることを示す。テレビも見ない、新聞も読んでいない人びとにとっては、選挙は遠い存在である。

 外国の選挙では、ある候補者の当選を期待する人たちが家々を訪問して支持を訴えるのだというが、日本では禁止されている。その歴史は長い、日本に普通選挙法が成立した1920年代、当時の国家権力は、無産政党の議会進出を止めるために、戸別訪問を禁止した。無産政党の支持者たちはカネがないから戸別訪問などで有権者と接触するしかなかったから、それを禁止したのである。今もその構造は変わっていない。

 さて、昨日届いた『週刊金曜日』の雨宮処凛さんの「風速計」に、なるほどと思われる内容が書かれていた。

 「普段は美容や整形やコスメの話題のみのアカウント。これまでいっさい政治的発信などしていなかった女性たちが、この頃突然、このままでは日本はヤバい、外国人から日本を守らなければと訴え始めたのだ。そうして突然、「日本人ファースト」を掲げる参政党の姿が現れるようになったのである。」

 雨宮さんは、その背景をこう書いている。 

 「「失われた30年」の中、先進国で唯一賃金が上がらない日本。3年にわたって続く物価高騰の中、昨年からは米まで手に入らなくなった。これほど生活が苦しいのに、外国人観光客は自分たちには手が出ないものを「安い安い」と喜んで消費している。そしてメディアでは、「中国系オーナーが突然東京・板橋のマンションの家賃を2.5倍にし、民泊に転用」などと報道されている。少し前からは、SNSで「川口のクルド人」の話題をよく見るようになり、アメリカでは、移民取り締まりに抗議するデモ隊に州兵が派遣され、大変な騒ぎになっている。このままでは、日本はわじわじわと外国に「侵略」されてしまうのではーー」

 確かに自民党・公明党政権が財界・大企業と手を組んで、「今だけ、自分たちだけ、カネだけ」という利権政治を展開してきた結果、日本の人口は激減し、労働力不足に陥り、日本の庶民は生活苦に遭っている。その一方で、労働力不足を補うために外国人を引き入れ、また生活苦にあえぐ日本の庶民の購買力低下を補うために外国人観光客を招き入れている。そして賃金が上昇し続けてきた外国人が、土地やマンションなどの不動産をも購入するようになった。 

 「不安」が庶民のなかに湧きあがるのも当然である。

 財界と手を組み、自民党・公明党政権が展開してきた庶民にとっての悪政は、日本人のプライドを揺るがしながら、庶民の生活苦をつくりだしてきた。そして外国人がみずからの生活圏内に入り込み、なかには優雅な生活をしている姿を見せ、あるいは、車を違法改造し騒音をまき散らしながら走っている迷惑系の外国人もいる。

 日本人に良い人も悪い人もいるように、外国人にも両方いるのだが、目につくのはそうしたルール違反をする外国人たちである。

 今、日本の庶民は、「不安」を抱えながら生きている。その「不安」にどう対処するのか。自分たちだけの利権に奔走している自由民主党や公明党には解決策はない。参議院議員選挙でどのような結果を生みだすのか。

 無理かもしれないが、「不安」をつくりだした者たちに鉄槌を加え、その「不安」が少しでも軽減されるようなことになればよいと思うのだが、果たしてどうなるか。何しろ、日本社会全体に、長年の自民党・公明党政権によってつくりだされた利権が無数に張りめぐらされ、日本社会を閉塞状態にしているのだから。

 その閉塞状態に少しでも穴が開けられたらと思う。

 

 

2025年7月3日木曜日

【翻訳】Japan pays a high price as it goes down market. (再掲)

 
 参議院選挙が始まった。2022年1月に翻訳したものだ。ここに書かれている内容は、長い間の自民党・公明党政権による悪政によってつくりだされたものである。こういう状態を続けるのか、それともこの参議院選挙を変革する契機にするのか、考えて欲しいと思う。

 The Upper House elections have begun.This translates to January 2022. What is written here is the result of a long period of misgovernment by the LDP and Kōmeitō governments. I hope you will consider whether to continue in this state of affairs or to use this Upper House election as an opportunity for change.

日本は市場縮小で高い代償を払うことになる

日本は安い。そう、その通り。日本の高付加価値ブランド、バブル時代、世界一高いと言われた日本の地価などを知っている人なら、これは驚き、あるいは仰天することだろう。

確かに、これまでの常識に反している。しかし、数十年にわたる賃金の低迷、デフレ、そしてアベノミクスによる打撃は、日本を世界のダイソーに変えてしまった。

例えば?141カ国中、日本は4番目に初任給が低い国だ。ディズニーランドへの入場料が最も安い。そして、日本のビッグマックの価格は、新興国並みである。

世界第3位の経済大国が「安い」ために払っている高い代償は、今年最も話題になったベストセラーの一つ、『チープ・ジャパン 物価が示す停滞』(日本経済新聞出版社、2021年3月8日)である。日本経済新聞社の金融記者、中藤玲による本書は、インフレを誘発するための複数の施策が失敗し、一部の物価が新興国並みに下落している現在の日本の惨状を描いている。

マクロ的には、日本は物価だけでなく、人材面でも「安い」国になりつつある。新卒の初任給が異常に低く、人手不足に拍車がかかり、頭脳流出に直面している。中藤氏は、日本は観光に依存した貧しい国になりつつあり、若くて優秀な人材が、より良い給料と労働条件の仕事を求めて国外に流出してしまうと主張する。

30年前は世界一物価の高い国だっただけに、驚くほどの落ち込みようだ。

物価が上がらない国

日本は物価が高いというイメージがあるが、裕福な国から訪れると、驚くほど低価格のものがたくさんある。

アメリカでは1泊1400ドルするような高級ホテルが、日本では700ドルで泊まれる。おいしい牛丼が300円(2.61ドル)、安いビッグマックが390円(3.39ドル)と、アメリカでは半額(5.74ドル)よりやや高い値段で食べられるのだ。

家族で楽しむなら、ディズニーランドの中で日本が最も入場料が安い。また、ショッピングはどうだろう。近年、日本の小売業で世界的な成功を収めているのが、安い商品がたくさんあることで知られるダイソーだ。ダイソーのコンセプトは「100円ショップ」、つまり100円均一である。もちろん、今では200円、300円、それ以上の商品もたくさんあるが、そのコンセプトは揺るがない。安いものはここで買おう。最近の数字では、ダイソーは海外26カ国・地域に2248店舗を展開している。韓国には1365店舗、タイには120店舗、アラブ首長国連邦には44店舗がある。しかし、100円で買えるのは日本だけである。

日本よりはるかに「貧乏」と思われているタイでは、ほとんどの商品が210円程度(タイの通貨)で売られているのに対し、アメリカではだいたい173円程度である。これは、現地の観光業界にとっては、新たなセールスポイントとなる朗報である。

中藤氏は、「日本の観光ブームを支えているのは、他国より圧倒的に安い商品やサービスである」と書いている。"外国人観光客による消費額は、2018年には2013年の3倍の4兆5200億円(416億ドル)に達した"

もちろん、これには、東京が最近力を入れているサービス経済のアップグレード、中央政府が行っている観光振興キャンペーン、近年のビッグイベントである2019年ラグビーワールドカップや2020年オリンピック・パラリンピックが大きく関係している。

そうすれば、海外からの観光客も笑顔になれるかもしれない。しかし、日本が低賃金・低価格の永久ループに陥っているからこそ、ダイソーは日本で大きなビジネスができている。

ここが問題なのだ。なぜ、これほどまでに低価格なのか。それは、日本が貧しい人々の国になってきているからだ。「安い」と「貧しい」の境界線は曖昧である。

安かろう 悪かろう

なぜ、このようなことが起こってしまったのか。中藤は明確な答えを一つも出していないが、様々な理由を提示している。特に目立つのは、第一生命経済研究所の永濱利廣チーフエコノミストの言葉だ。「一言で言えば、日本の長いデフレが、企業の価格転嫁のメカニズムを破壊してしまったということだ。製品価格を上げられないと企業は儲からない。儲からないと給料が上がらない。給料が上がらないと消費が伸びず、結果的に物価が変わらない。こうして、日本の "購買力 "は弱まっている」と述べた。

人々が、休暇を過ごすために日本に来ている(少なくとも COVID-19に襲われる前はそうだった)のは、日本が安いからだということ、これは驚くべき発見である。

そして日本は、購買力の低下だけでなく、交配する力の低下にも悩まされている。日本は高齢化と人口減少により、長年にわたって労働力不足が続いている。一方、慢性的な労働力不足は、ロボットが働くホテルのフロントデスクや運転手のいない電車など、革新的な解決策をもたらした。

また需要と供給のバランスが崩れているため、賃金はあまり上がっていない。インフレ調整後の実質賃金は過去30年間のほとんどで下落し、実質的には20年前とほぼ同じ水準にとどまっている。

しかも、福利厚生が充実していない「非正規雇用」の労働者が増えている。この低賃金の非正規労働者の急増が、新たな下層階級を生み出している。1980年代に労働力人口の15%であったが、現在では40%近くになっている。

正社員の時給は通常2500円(21ドル)、これに対し派遣社員は1660円(14.42ドル)、パートタイマーは1050円(9.12ドル)に過ぎない。また、非正規労働者は、会社の健康保険や正規労働者のような特典を受けることはほとんどない。

性差も関係している。日本がガラスの天井の低さで有名なことはよく知られている。性差別が国民の貧困を助長しているというのは、そうではない。しかし、だからといって、それが真実でなくなるわけではない。

ひとり親家庭の相対的貧困率では、日本が最も高く、50%近くを占めている。しかし、日本のシングルマザーの就業率は87.7%で、OECD諸国の中でトップクラスである。つまり、他の国のシングルマザーよりもずっと頑張って働いているのに、それでも貧しいというのは、彼らの給料が悲惨な額であることを指し示しているのである。

厚生労働省が11月に発表した年次報告書によると、2020年の日本の自殺者数は912人増の2万1081人となり、2009年以来の増加となったことがわかった。増加の原因はパンデミックとされているが、それがすべてを物語っているわけではない。

男性の自殺者数は11年連続で減少したものの、女性の自殺者数は15%増加し、2年ぶりに増加した。低賃金の「非正規」労働者の7割が女性であることは、偶然ではないだろう。

一方、運良く出世の階段を上った人たちは、幸先の悪いスタートを切っている。

コンサルティング会社のウィリス・タワーズワトソンが、2019年の世界各国の大卒1年目の年間基本給を調べたことが、本書で明らかにされている。アメリカは平均629万円、ドイツは531万円、フランスは369万円、韓国は286万円となっている。しかし、日本の新卒初任給は262万円で、114カ国中4番目の低さだった。これはスイスの初任給902万円の3分の1である。

貧困がよくないことであることを説く日本人は中藤だけではない。

投資など、長年のトレンドが逆転していることもある。日本は "世界の工場 "と呼ばれるほど巨大な投資国だが、中国の国有企業CITICグループは日本の中小企業14社を買収しその技術や労働力を吸収している。

もちろん、それは単なる国境を越えた資本移動に過ぎない。それよりも重要な発見は、労働力の移動である。つまり、頭脳流出が始まっていることを示唆しているのだ。

経済学者の野口悠紀雄・一橋大学名誉教授は、毎日新聞の記事でこう書いている。「20年後、日本人は中国に出稼ぎに行くだろう」。10年前なら、この発言はナンセンスと一蹴されたことだろう。実際、中国にはすでに日本人の出稼ぎ労働者がいる。しかも、日本人にとってショックなのは、その多くが国を代表する産業から生まれていることだ。

アニメは日本を象徴するものだ。日本が誇る文化輸出の代表格であり、アニメの分野では世界的に高い評価を得ている。しかし、そのアニメを制作するアニメーターの賃金は、驚くほど低い。日本アニメーター・演出協会の調査によると、アニメーターの54.7%が年収400万円以下で、中小企業の若手アニメーターは月収9万円も珍しくない。こうした低賃金と重労働に嫌気がさし、仕事の質が向上し、急成長している中国市場に人材が次々と流出しているという。

日本に活路はあるのだろうか。

(以下略)

 

 

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山田昭次さん

  山田昭次さんが亡くなられていたことを、今日知った。今日配達された『週刊金曜日』の記事に、「行動する歴史学者」としての山田さんが、3月15日に亡くなられ、6月14日、立教大学で「しのぶ会」が開かれたことが書かれていた。

 1983年、静岡県近代史研究会の総会記念講演で、「関東大震災時の朝鮮人虐殺をめぐる日本の権力と民衆」というテーマで話されたこともある。当時、事務局長であった田村貞雄さん(田村さんも亡くなられた)の依頼で来られたと思う。田村さんとは、東京教育大学大学院で一緒だったそうで、大学院時代、御茶ノ水の喫茶店、その名は忘れたが、そこで読書会(研究会)をやっていたとのことだった。それ以外にも、田村さんから山田さんのことをいろいろ聞いていたが、記憶力の減退の中で、思い出せない。

 当初、山田さんは自由民権運動などを研究されていたということだった。田村さんによると、山田さんはとても詳しく、たくさんのことを教えられたそうだ。その後朝鮮史というか日朝関係史の研究に移られたが、もし自由民権運動をそのまま続けられていたら、大きな業績を残されただろうと、田村さんは語っていた。

 わたしも、静岡県近代史研究会とは別に山田さんとは、どこかでつながっていて(思い出せない)、東京麻糸紡績沼津工場に動員された朝鮮人女子勤労挺身隊の「公式謝罪等請求訴訟」の控訴審(東京高裁)に、「朝鮮女子勤労挺身隊の歴史的位置」という意見書を作成していただき、また法廷にも立っていただいた。その意見書は、とても詳細で、短時間によくもまとめられたものだと驚いたことがある。

 その後も山田さんとはお電話で何度か話したことがあるが、最近はそういうこともなくなっていた。

 まさに「行動する歴史学者」で、誠意ある方であった。山田さんのように、戦後歴史学の担い手が他界していく。とても寂しい。  

学歴

  伊東市長の学歴詐称の問題が騒がれている。東洋大学を卒業したのか、中退なのか、除籍なのか・・・・学歴問題が騒がれてから、伊東市長はそれについて明言せず、やっと会見を開いて除籍であったことを明らかにした。

 まず、政治家にはどのような学歴が必要なのか、という問いもたてることはできるが、れいわ新選組の代表山本太郎は、「わたしは中卒だ」と明言している。 わたしは山本太郎が街頭などで市民と対話している姿をみて、政治家にとって必要なのは学歴じゃない、ということを実感している。

 したがって、伊東市長の学歴そのものは、問題にはならない。

 しかし、伊東市長は大学を卒業したのかどうかさえ、疑惑が提示されてからすぐに明言しなかった。これはとてもおかしい。みずからが大学を卒業したかどうかは、みずからの記憶に明確に残っているはずだ。

 わたしは、大学の入学式も、卒業式も出ていないけれども、卒業したという記憶を明確に持っている。きちんと所定の単位を取り、学費も払ってきたから、当然のことである。大学に入学したけれども、単位をとらなかった、学費を払わなかったということがあれば、それは除籍になるだろうし、それはいちばん本人の記憶に残っているはずだ。他者からの投書によってはじめてわかるという話でもない。

 大都市の首長にも学歴詐称の問題が生じていたが、某国の場合ならカネで解決できるだろうが、日本の大学はそうしたことはないだろう。

 わたしは、この伊東市長の場合、学歴の問題というより、自分自身が大学とどう関わってきたのか記憶にあるはずなのに、それを、問題が発覚してから正副議長に卒業証書らしきものを見せたり、それに関して弁護士を雇ったりして何とか逃れようとした態度、事実に対する、あるいは自己の人生に対する誠実さがないことが問題だと思う。

 やはり大学を卒業していたかどうかということではなく、その点で、伊東市長には誠意がないと思わざるを得ない。市長としての職は、おそらく全うできないだろう。いさぎよく辞職すべきである。

 

2025年7月1日火曜日

現代国家論(1)

  『中日新聞』が「揺らぐコメ高騰を追う」という連載をしている。これを書く記者は、コメの生産地に足を運び、まさに生産地点で現在のコメ高騰の問題を考えようとしている。記事では、「コメが足りなくなるかもしれないという予兆を現場が感じていたのに、農水省は作況指数などを盾に異変を見逃し、対応しなかった。「昨夏に備蓄米を出していれば、今ほど高値になることはなかった。農水省は生産者の現場、消費者の実態をどこまで把握しているのか」」、「農家の長男として生まれた伊藤さんは、江戸時代に建てられた自宅を囲むように広がる水田1・8ヘクタールでコメを栽培してきた。だが、5年ほど前から温暖化による猛暑の影響で品質は下がり、収穫量が減ったと感じてきた。「粒が小さい。玄米を精米すると、粒が割れて収穫量が減ってしまう」。昨秋は例年より約2割も減った。/それなのに農林水産省は昨年12月、コメの作柄を示す作況指数(平年=100)が、2024年産米で「平年並み」の101だったと発表。「どの農家に聞いても収穫は少なかった」という。伊藤さんの不安は的中し、コメの供給不足が現在の高騰の一因となった。」と書かれている。

 農作業に従事しているわたし自身が感じた2023年からの(記事の伊藤さんは5年前から)、米作のみならず農業生産地点での猛暑の影響、それに伴う不作を、東京にある国家権力の担い手たち(政治家や官僚など。以下、「権力者」)は感じることはなかった。

 なぜ感じないか。東京を中心とした大都市圏に住まいしている「権力者」も含めた人びとは、大都市圏にコメが運ばれてきていれば、そして満足にそれを食べることができてさえいれば、生産地点での変化には気にとめないのである。しかし大都市圏にコメが運ばれてこなくなると、かれらも気がつく。それが今年、2025年である。

 農水省など、地方にはその関連機関を置いているではないかと問うこともあろう。だが地方にいる者たちも同じ「権力者」であって、彼らは生産地点には眼を向けず、常に東京を中心とした大都市圏に住まいする「権力者」を見据えている。「権力者」の最大の関心事は、みずからの「出世」(昇進)であって、みずからが担当する仕事に熱心に取り組むことではない。熱心に取り組んで民間との摩擦を生じるよりも、たとえば違法に気がついても、担当する期間、その仕事が「大過なく」過ごすことができればそれでよいのである。熱海市の違法な盛り土が土石流となって人家を呑み込む事件があったが、違法だと知っていても静岡県の役人(権力者)は見て見ぬふりをした。「大過なく」である。

 さて盛り土は、東京都内にはほとんどないだろう。大都市の開発の中で生みだされる大量の廃土は、地方に運ばれて巨大な盛り土となって地方住民を苦しめる。

 大都市圏に住まいする「権力者」にとっては、それはどうでもよいことだ。 

 大都市は、不要なものは地方に廃棄し、必要なものはせっせと運ばせる。その代表的なものは税金と食料である。税金と食料は、全国から運ばれてくる。金は実際には運ばれないだろうが、しかしそれをつかうことができる「権力者」の大方は、大都市圏に住まいしている。

 高速道路を東京に向けて走らせていると、全国各地からの食料、それもとっておきのものが、東京へと運ばれていくことに気づく。肴はトラックの生けすで運ばれ、生のまま東京の「権力者」の口に入る。 

 東京には、カネが集まり、地方からの税金が「権力者」によってばらまかれるから、東京は景気がいい。それを求めて多くの人が集まるから、東京都はたくさんの住民税、固定資産税などできわめて潤沢である。公共交通機関も次々とつくられ、自家用車を持つ必要はない。

 しかし東京などに人口を吸収させられた地方は、公共交通は衰弱し、自家用車を持たなければ買い物にもいけない。地方の住民は、高騰するガソリンを買って自家用車をつかうしかない。高騰するガソリンに苦しむ地方の住民のことなんか、「権力者」は考えない。だからガソリンに多額の税金がかけられ、本来ならば、レギュラーガソリン1リットルあたりの平均小売価格が3か月連続で160円を超えた場合、1㍑あたり25.1円の特例税率が停止されることになっているのに、自民党・公明党政権はそれをするつもりはまったくない。彼らは大都市圏に住まいする「権力者」だから。

 このように、日本を根本のところで支えている地方を軽視し、大都市圏だけ見つめながら政治を行っている「権力者」中心の国家を、わたしは「大都市利権国家」と命名する。