文庫とは言え、700頁を超える大作である。幕末から維新にかけての、隠岐における庶民の動きを追ったものだ。歴史小説ではあるが、綿密な資料収集、現地取材をふまえて構想された小説であることがよくわかる。
著者は寡作だといわれているようだが、当然だと思う。こういう長編の歴史小説、それも歴史的事件をふまえたものを書くためには、膨大な時間を投入せざるを得ない。
史資料などをもとに歴史叙述をしてきたが、根拠あることしか書けない歴史研究でも時間がかかるのだから、さらに作品に即した創作を加えるのだから、その苦労が想像出来る。
主人公は、大塩平八郎の乱に加わった西村履三郎の子、常太郎を軸に、大塩の乱、コレラ騒動、1868年の「隠岐騒動」などを織り込みながら、幕藩体制下の庶民の苦しみ、天領である隠岐を預かっていた島根藩の武士達の横暴などを描く。とりわけ、「隠岐騒動」を詳しく叙述している。
常太郎は、履三郎の子という理由で、16歳で隠岐に島流しに遭う。住民の理解を得て、隠岐では医学を学び、医師として病魔に苦しむ住民の医療に携わる。
長編ではあるが、とにかく最後まで読みとおす力を読者に与えてくれる小説である。何となれば、大塩の乱、「隠岐騒動」などの叙述、コレラとの闘いなど、次から次へと新たなドラマティックな事件が起き、まったく飽きさせない。
わたしは、歴史研究は、底辺の視座からなされなければならにという信念を持っているが、この小説はその精神が貫かれている。そしてその視座から見つめれば、支配層はいつの時代でも、みずからの地位、財産、威厳などを保つために、悪事を平気で行うという、歴史的真実(現実でも真実であるが)を明確に記していく。
そしてこの歴史小説の背後に流れているのは、著者・飯嶋の正義感である。
他の勉強をしなければならなかったのに、この本を読みはじめて、他には目もくれなかった。
素晴らしい小説である。
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