2025年8月16日土曜日

【本】笠原十九司『南京事件 新版』(岩波新書)

  1945年6月18日、浜松市に米軍による空襲があった。空襲で多くの市民が亡くなった。その状況は、今は亡き母から何度も聞いたことがある。しかし、この空襲での犠牲者数は、確実に何人という数字はない。以前調べたとき、浜松市の数字と浜松市の消防が公表した数字が異なっていた。それほど戦争時の死者数は正確には数えられないのである。

 ところで、この本を読んでいて、南京虐殺事件について、事件を否定したい者どもが、「正確な犠牲者数が証明できないのは、南京事件がなかった証拠」と言っているという。ばかな人たちだ。とするなら、浜松空襲もなかった、ナチスによるユダヤ人虐殺もなかった、ということになる。戦時下の犠牲者数が何人であるのかを確定することは不可能なのである。

 南京事件研究といったら笠原十九司といわれるほど、笠原は、研究した成果をたくさんの著書で明らかにしてきている。本書は、笠原の研究の現時点での総括的な研究書となっている。

 とりわけ、最近笠原が日本海軍について研究を進めている結果、南京事件に関わった海軍の動きが書き込まれている。日本の戦争史では、陸軍悪玉説が流布しているが、それと同じくらい海軍も「ワル」だったことを、笠原は暴き出している。

 また本書には、南京を守備する中国軍の司令官康生智が適切な指揮を執らなかったことが、中国兵の死者を増やす原因でもあったことを記している。

 本書は、中国での南京事件に関わる調査研究の結果を反映している。具体的な証言が掲載されている。また犠牲者数の、勿論概数であるが、提示もしている。

 南京事件は、大日本帝国に郷愁や憧れを持つ日本人が否定しようとしているが、無数の史料がそれに対して史実としてさらにさらに明らかになってきている。彼らが否定すればするほど、事実がより明らかになっていくのである。

 本書は、「戦後80年」の今年、かつての日本軍が、日本人が、いかに狂っていたのかを証明するものとなっている。

 「南京攻略戦はもともと参謀本部の作戦計画になかったものを、中支那方面軍司令部と参謀本部の下村定第一部長らの拡大派と策応して強行し、それを昭和天皇が追認、近衛内閣も追随し、さらにマスメディアが、南京を攻略すれば中国は容易に屈服して戦争は勝利するかのような安易な期待感を流布した。日本国民は、「南京に日章旗が翻る時」が戦争終結であるかのように報道する新聞記事に熱狂し、南京占領を受けて「勝った!勝った!」と国をあげて祝賀行事を展開した。」(239頁)

 拡大派の軍が主導し、天皇や近衛内閣がそれを認め、さらにマスメディアが国民の間に熱狂をつくりだした。 

 わたしは、その背後に、中国(人)への「蔑視」があると思っている。そういう感情は、客観的な判断を狂わせるのである。 

 ぜひ読んでほしい。 

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