2025年8月6日水曜日

【本】沢田猛『最後の証言者たち 戦場体験者・戦争体験者からのメッセージ』(高文研 2025年)

  「戦後80年」にふさわしい本である。

 著者が戦場体験者/戦争体験者に聞き取りを行ったのは、2000年代である。体験者がみずからの体験を語ることが出来たギリギリの時期であった。彼ら語り手の多くは、本書が刊行された時点でほとんどが物故している。まさに「最後の証言者たち」からの聞き取りであった。

 本書は、戦争を生きたひとりひとりの体験を詳しく聞き取り、また現地取材、調査をすることによって、アジア太平洋戦争とは何であったのかを浮き彫りにするものとなっている。まさにミクロともいうべき個々の体験が、戦争というマクロの本質を明らかにしていく。

 本書には25の話が記されている。そこには日本人のみならず、朝鮮人、中国人、アメリカ人の戦場/戦争体験が語られている。そしてその体験の場は、アジア太平洋戦争が戦われた、中国、ニューギニア、台湾、マーシャル諸島、フィリピンなど広範囲にわたっている。著者は、実際に現地に足を運び、人びとの語りを聞き、それぞれの体験がどのようなものであったか、それが現在とどうつながっているかを明らかにしていく。

 本書には25の話が記されている。震洋特攻隊、BC級戦犯、重慶爆撃、ニューギニア遺骨収集、朝鮮人軍属、学童疎開、戦争孤児、マレー半島ピースサイクル、フィリピン戦、元人民解放軍女性兵士、731部隊、空襲、ゼロ戦搭乗員、フィリピン残留二世、大森捕虜収容所、B29搭乗員、元海軍整備兵・・・・・戦争の現場は、このようにいろいろであるが、共通してあるのは人を殺すという場であったことだ。その場に、体験者がひとりでいたわけではない。味方がいる、敵がいる、そしてそれぞれに家族がいる。だから、著者が聞き取りを行ったのは、それぞれの項目につきひとりというものではない。その体験者とつながっている人びとからも、聞く。すると、個別の体験が点から面へと広がり、アジア太平洋戦争のなかに位置づけられ、その体験を「戦後」まで引きずってきたことにより、時空をも超えていく。

 もちろん戦争/戦場体験者は、戦争に否定的である。もう戦争はすべきではないという、体験から導き出された結論は、しっかりとした信念になっている。 

 本書に挙げられた25の話のなかには、731部隊など今までも注目されてきたものもあるが、戦場/戦争体験が個別的であるが故に新鮮で、その声は多声的なのだが、しかし導き出される結論は同じである。

 今までにない戦場体験者・戦争体験者からの聞き取りを集めた本書が、多くの人に読まれることを期待したい。

 

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